上智大学アンコール遺跡国際調査団
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 ベトナムのホーチミン市から広大なメコン川デルタをカンボジアへ向かって飛んでくると、陸続きのため、その国境はハッキリしない。しかし、砂糖ヤシの樹が見えてくると、もうカンボジアに近いことを実感する。この砂糖ヤシと稲田のたたずまいは、カンボジアの典型的な農村風景だからである。

 アンコール遺跡は、このカンボジア北西部、シュムリアップ州のトンレサップ湖北西岸一帯に展開している。アンコール王朝治下(802年頃~1431年頃)に、石や煉瓦で建設された、大小の寺院や祠堂(しどう)(神仏をまつる小さい建物)、貯水池、橋梁などの膨大な数の遺跡群である。現在、カンボジア国内で約1080ヶ所が遺跡として登録されている。とくにシェムリアップ市(プノンペンから北西313キロ)郊外には、有名なアンコール・ワットやアンコール・トムなど主要な63の遺跡があり、最近、多くの観光客が訪れるようになっている。

 建造物の規模の壮大さ、高さ65mにも達する圧巻の高塔建築、壁面を飾る浮彫に代表される華麗な造形美術などがアンコール遺跡の特色で、東南アジアの「ギリシャ」とも喩(たと)えられるアジア最大級の文化遺産となっている。遺跡は、それが造られた当時の社会の産物で、そこには往時の時代精神と技術力が凝縮されている。----

 上智大学アジア文化研究所では―――2002年からは、新設のカンボジアに本部を置くアジア人材養成研究センターが中心となって、まだ国交が開かれていない1980年以来、カンボジアの要請に応えて、多くの大学や研究機関などの研究者・専門家(アンコール遺跡国際調査団メンバー)の協力・参加を得て、「アンコール遺跡国際調査団活動基本理念」に基づいて、アンコール遺跡の調査研究と保存修復の活動を手伝ってきている。

 その活動内容は大きく、(1)遺跡の調査研究と保存修復、(2)カンボジア人の専門家の養成、(3)「遺跡・村落・森林」の共生、の3プロジェクトに分けられる。これらをカンボジアの専門家と共同で行っているが、いろいろなところで文化摩擦に遭遇している。アンコール遺跡の保存修復について言えば、遺跡を地域から切り離し、カンボジア文化の文脈で考えずに、技術的観点に終始するのではなく、現地の技術レベルや技術の消化能力などを見ながら、技術の導入・引渡を行わなければならない。日本では当たり前のことがカンボジアではそうではない。いつも相違点があることを理解していなければならない。

 結局のところ、国際協力とは「ぶつかり合い学ぶ」ことであると実感する。こちらが善意で言ったり、やったりしても、それを相手は干渉と受け取る場合がある。日本のやり方が普遍的ではい。しかし、摩擦は相互理解の始まりでもある。国際文化交流は詰まるところ「人」の交流であり、そこでいかに相互の信頼関係を構築していくかが大切である。それは容易なことではない。経験から言えば、実際の活動事業に費やされた時間は全体の約2(割で、約8割はそれ以外の相手とのやり取りや諸準備に費やされている。

 アンコール遺跡はカンボジア民族の誇りと伝統の象徴である。その保存修復はあくまでも現地の人たちの手でなされることが原則である。民族の固有の文化を世界に向かって説明できる人々は誰よりも現地に暮らす人々である。アンコール遺跡の保存修復に関する国際協力とは何と言っても、そこに暮らすカンボジアの人々の自立を助ける人材養成などがその基本でならなければならないと考える。----以下続き

(「アンコール遺跡の調査研究と保存活動の歴史」石澤良昭)