上智大学アンコール遺跡国際調査団
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人間が夢を託したアンコール・ワット

アンコール・ワット アンコール・ワットは巨大な石積の伽藍である。天空にそびえ立つ尖塔、急斜面の大階段、大回廊、本殿まで続く540メートルの長い参道に対しても、ある種の恐怖に似た衝撃と感動を覚える。
 アンコール文明が終わり、数多くの寺院がその役目を終え、ただの石ころとなる時、石は新たな思想を呼び起こし、哲学を生む。それはまるで滅び去った寺院からその魂が抜け出し、また別 の魂が吹き込まれていくようである。
 アンコール遺跡には、往時の人たちの生活と知恵と、それらが造られた時代の最先端の科学技術が盛り込まれていた。それら都城や王宮、祠堂群を建造するためには巨大なエネルギーが 必要であった。それは信仰の証でもあった。宗教を要に社会が健全に機能し、政治、経済が稼働していた。その背景には王と村人のひたむきな神々への篤信と、人々の深い信仰と、来世への救済を願い、それを実現するために寺院を造営し、具現しようとする情熱があったからに他ならない。当時の王や村人たちがアンコール・ワットの石積を続け、65メートルの尖塔を完成させた篤 信のエネルギーは、一体何だったのだろうか。神、信仰、来世の救済、自然に対する脅威、死に対する恐れもあっただろう。
 アンコールの地に祈りを込めて建立された寺院と祠堂、それらに思いを馳せる時、往時の人たちはどこから来て何処へ行くのかを知っていたのであろうか。アンコール遺跡という過去を究明することは、とりもなおさず私たちの未来を探ることになる。
 例えばバイヨン寺院の四面仏尊顔を見る時、信仰に対する喜び、愛することのいとおしさ、日常 の労働の苦しさ、死における哀しみなど、人間の様々な感情が塗り込められている。私たちの周りの環境が変わり、どんなに科学が進歩しても、人間のこの感情は少しも変わってはいないと思う。
 アンコール・ワットやアンコール・トム都城を訪れる人たちは、その石積の精巧さに心を奪われ、カミソリの刃も入らないほどきっちりと組み合わされた石と石を見て、現代の常識では計り知れないほどの技術やその情熱に魂さえも押し潰されてしまう。石造りの遺跡の周辺には村人たちが高床家宅を建て、今も生活を続けている。少しも変わらない石積の遺跡の傍らで、新しい生命が生まれ、また死んでいく。何代も何代も繰り返されてきた。
 村人はこの遺跡のことを「石の家」と呼称する。儚い人間生活と、永遠なる時間の重さを感じさせる石造祠堂、この割り切れなさが私たち現代人の心を捉えている。

石澤良昭  上智大学アンコール遺跡国際調査団団長(上智大学教授)

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上智大学アンコール遺跡国際調査団活動基本理念
石澤良昭教授 上智大学学長に決定:上関連記事「上智大学通信」


アンコール遺跡の環境問題 - ISO14001環境マネージメント・システムの導入

 アジアの誇りである世界遺産「カンボジア・アンコール」の遺跡群が観光客の急増により深刻な環境汚染にさいなまれている。
  1992年に世界遺産に登録された遺跡群は、壮大な石造伽藍(がらん)のアンコールワットを中心に寺院や王宮跡など99カ所の遺跡が、東京23区ほどの地域に分散している。
 カミソリの刃も入らないほどきっちり組み合わされた石と石を見て、それらが8世紀から15世紀にかけて建造された事実に、訪れた人は魂を奪われる経験をしたことだろう。
 しかし、1995年には約5500人にすぎなかった観光客が、2004年には地元観光客を含めて約60万人に急増、今年は100万人を突破する見込みだ。そうした中、遺跡群周辺の環境が急速に劣化しだしている。
 観光客の激増は、ホテルの建設ラッシュに顕著だ。その数、1995年の15から、いま65(3900室)。建設中が他に27(3500室)ある。小規模なゲストハウスはまさに雨後のタケノコで131棟にも及ぶ。
 遺跡群の周辺には膨大なゴミが堆積(たいせき)し、観光バスやタクシーによる大気汚染がひどい。河川の水質も急速に悪化している。ホテルなどは自然林を切り開いて建てるため、「森と遺跡」という歴史的景観が様変わりしつつある。
 遺跡を管理するアンコール地域遺跡整備機構(アプサラ機構=APSARA)も手をこまぬいていたわけではない。遺跡内の駐車場を増やし、トイレも10カ所に設け、バイパス道路を新設してきた。しかし、そうした基盤整備のたびに巨木が伐採され、なかなか環境改善につながらない。
 しかも、観光収入はカンボジアにとって貴重な外貨獲得源であり、欧米や日本からの観光客の来訪は政治的安定を見せる好機でもある。遺跡群は国際ショーウインドーなのだ。
 遺跡群保存のため、上智大学アンコール遺跡国際調査団は内戦中の1980年から遺跡の修復と調査に取り組んできた。特に力点を置いてきたのが自立支援のための人材養成プロジェクトだ。遺跡群の周辺には24の村があり、約2万3千人が主に農業に従事しているが、私たちは地元で石工を育てる傍ら、高度な知識を持った遺跡保存官になってもらうため、研修生を日本の大学院に送り、既に4人の博士を誕生させた。今そろって政府機関の要職にある。
 そのアプサラ機構が環境局を新設し、2003年5月には環境マネジメントのグローバルスタンダードであるISO14001の取得に向けて環境リーダー教育を始めた。日本からは日本品質保証機構、国際規格研究所、品質保証総合研究所が研究員を派遣し、リーダー養成の一翼を担っている。
 アプサラでは、職員が遺跡内の売店や屋台を回ってゴミ減らしを呼びかけ、ゴミ箱の設置を働きかけている。民間のゴミ収集会社に遺跡群周辺のゴミ巡回収集の委託も行った。小学校でのゴミ減量教育が実り、村人たちも腰を上げ始めた。
 だが、人類の貴重な遺産を継承し、後世に残すためには、アンコール地域全体を対象にした「環境整備マスタープラン」の作成が急務である。環境技術先進国・日本の経験を参考にしながら、遺跡を回る電動シャトルバスの導入や遺跡保護ゾーンの厳守などを早急になさなければならない。海外観光客の2割を占める日本人にもゴミ袋持参で訪れることを呼びかけたい。

(「アンコール遺跡 環境汚染への対策急げ」 石澤良昭   朝日新聞 2005年1月4日 朝刊 「私の視点」)

上智大学・学外共同研究が支援するアンコール・環境マネジメントシステム(ISO14001)導入プロジェクトについて

 なお、この3年あまりの労力が実って、アプサラ機構は財団法人日本品質保証機構より環境マネジメントシステムISO14001の認証を取得し、2006年4月18日に認証式が行われ、5月4日に開催された認証祝賀会においてアプサラ機構のブンナリット総裁から上智大学は環境保全教育に関する貢献に対して表彰状をいただいた。

上智大学通信
JQAニュース(JQA ISO Network 2006 Summer)

ISO Manegemant System at Angkor Wat


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